知らないところから金銭の返還を要求され、よく確認すると、署名が偽装されていたということがあります。
その時は、どうすればよいのでしょうか。
確認していきましょう。
紛争の経過
署名が偽造され、紛争となる例としては、偽造された署名がある借用書を理由に金銭の返還を請求される場合等が考えられます。
このような場合に、当該借用書があるからと言ってそれだけでは請求する人が、請求される人の財産に対し、差し押さえ等の強制的な処分によってその金銭を回収することはできません。
また、請求される人にとっては、偽造された署名のある借用書を理由に請求されているのですから、話し合いによる解決も難しいと考えられます。
したがって、最終的には、請求する人が、請求される人に対し、当該金銭の返還を求めて民事裁判を起こすことになります。(以下、請求する人を「原告」、請求される人を「被告」といいます。)
そして、裁判において原告は、金銭を交付し、被告が当該金銭の返還を約束したとの事実を主張し、その事実を立証するために被告の署名のある借用書を証拠として裁判所に提出することになります。
借用書の性質
一般的に借用書には、一方が他方から金銭を借り受け、返還する事を約束したとの法律上の意思表示が記載されています。
このような法律上の意思表示が記載されている文書は処分証書と呼ばれています。
処分証書は、法律上の意思表示が記載されているものですので、作成者の意思に基づいて作成されたこと(以下、「文書の成立の真正」といいます)が立証された場合には、特段の事情がない限り記載通りの意思表示があると裁判所は認定することになります。
したがって、金銭を返還する合意の有無が裁判の争点となった場合、被告は、借用書は自分の意志に基づいて作成されたものではないということを争わなければ、特段の事情のない限り敗訴してしまいます。
文書の成立の真正の立証責任
この文書が作成者の意思に基づいて作成されたことについては、文書を証拠として提出した人に立証責任があるとされています。
そして、文書に作成者の意志に基づいた署名がある場合には、文書全体が作成者の意思に基づいて作成されたものと推定されます。
署名の場合、意志に基づいた署名がないことはあまり想定できないため、一般には、原告が、借用書にある署名が被告の署名であることを証明できれば、借用書全体が被告の意思に基づいて作成されたものとされることになります。
被告は署名が偽造されたもの、すなわち、自分の署名ではないと主張して争うことになります。
本証と反証
上述の通り、文書が作成者の意思に基づいて作成されたことについては、文書を証拠として提出した人に立証責任があるとされています。
そして、立証責任があるとは、法律上、裁判所に、経験則に照らして、特定の事実があることについて、一般の人なら誰でも疑いを挟まない程度に真実らしいとの確信を抱かせなければならないということです。(高度のがい然性)
したがって、被告は、裁判所に借用書の署名が被告のものであることについて、一般の人なら誰でも疑いを挟まない程度に真実らしいとの確信を抱かせなければなりません。(以下、「本証」といいます。)
これに対して、被告は、裁判所に借用書の署名が被告のものであることについて、一般の人ならば疑いを差し挟む余地があるとの心証を抱かせれば足ります。(以下、「反証」といいます。)
立証活動について
文書の成立の真正に関して、立証方法については、手形訴訟を除く特段の制限はなく、筆跡の対照によっても証明ないし反証することができます。
筆跡の対照によって証明ないし反証をする場合、対照するのに適当な筆跡がない時は、裁判所は、対照に用いるための文字の筆記を命じることができます。
まとめ
自己の署名が偽造され、相手方が署名を偽造した文書に基づいて主張をしている場合、裁判において反証をする必要があります。